その日
テスト2日目だった。
やっぱりいつも通りしんどくて、テストは2時間目からだったのもあって少し遅めに家を出た。起立性調節障害だから、朝8時なんてそんなもんだ、って思って。
高校の最寄り駅は、大きくも小さくもない、強いて言うなら大きめのモールが併設されてる、別の路線への乗り換え駅でもある所で。
そこで元々悪かった体調が更に悪化した。
具体的には、吐き気めまい動悸息切れそして足の震え。きっと今日出さなきゃいけない課題が終わってないせいだ、って思って。
少し遅めに出たとはいえ、まだ30分ほどなら余裕があったから、モールの中のベンチに座って本を読んでいた。知ってる人もいるんじゃないかな、「繊細さん」ってやつ。HSPについての本。お気に入りの部類。
30分経ってさ、そろそろ行かなきゃって立ったんだ。
吐き気と動悸とその他諸々がもっと悪化した。
仕方ないから、もう1回座ってまた本を読んでた。昨日も親に送って貰ってたから、先生は遅れる可能性をちゃんと把握してる、だから大丈夫だ、って。
更に30分経った。既にテストは1つ終わっている。いい加減行かないと、もう体調がマシになるのは期待出来ないから、出口、つまり通学路の方に向かったんだ。
モールから、出られなかった。
足が、震えた。
モールからの出口は幾つかある。私がルートを知ってるのはうち2つ。どちらからも出れない。
ああ、これもうダメなやつだ。
そう理解したのは、少なくとも、体感では一瞬だった。
それが、不登校になった日。
電車
その後、体調がどうしても悪くて学校には行けない、きっと心因性だと親に一報入れた。
そしたらさ、足の震えも動悸も吐き気も、スッとマシになったんだ。
どう考えても心因性で、大泣きしながらも苦笑した。
家に帰るホームで、ふと思いついた。
そのまま帰らず、反対方向へ行こう。1つ隣は、よく知らない大きい駅だ。
インドア派だけど、お出掛けも冒険も好きな性分で、そしてホームは線路と線路の間にあるタイプ。さらにどうせ今日はズル休み、好きなようにしてナンボだろう。
そういう考えに至ったのだ。
電車の中がものすごく快適なのは、久しぶりだった。息がしやすくて、びっくりした。
それから2ヶ月ほど後だったか。
学校に行くのも、この先普通に、真っ当に生きるのはまあ無理だろうと諦めはじめた頃だった。
ふと、どこか遠くへ行きたくなった。
時間ならある。私は、電車に乗った。
時刻は午前10時。そもそも利用者が少ない路線。当然、ガラガラの車内。
通学とは似ても似つかない、それでも。
高校の最寄り駅を過ぎるまで、息苦しかった。
人混みとねるねるねるね
夏休みに、田舎の祖母のところで法事があった。
久しぶりに会った小学校低学年のいとこが、暇だ、誰かいっしょにねるねるねるね作らないか、と周りを誘った。
が、ゲームやらマンガやらで誰も乗らない。
流石にかわいそうになって、いっしょに作って、1口食べたのだ。
吐くかと思った。
確かに知っている、それに美味しいとは思うのに、吐き気を催して、食べられたもんじゃなかった。ちなみに残りは件のいとこが食べてくれた。
そんな体調不良を抱えたまま、法事は始まる。
8畳間が2部屋。人は40人もいない。
でも、それすら耐えられなくて、中盤で離席させて貰った。
前回はもっと多かった。もっと長かった。そして平気だった。
ねるねるねるねも法事も、平気だった、のに。
予兆
思えば、予兆ならあった。
通学の電車が1本遅くなった。交代で回ってくる朝の当番には間に合わないものだった。
駅までの道のりを、同じ時間に通勤する親にしがみついて行くようになった。
電車では座りこんでいた。座席が空いていなければ、床に座った。
体育の見学が多くなった。
1時間、保健室で過ごすことも増えた。
もうすぐ夏なのに、自販機でホットの飲み物を買っていた。
休みの頻度が上がっていった。
送ってもらうことも、早退も増えた。
足が震えて、うまく歩けないこともあった。
休み時間には、外の渡り廊下にいた。
顔色が悪いと、何人かの先生に言われた。
学校に行きたくなかった。
スクリーンタイムは、倍になっていた。
でも。
起立性調節障害は、春から夏にかけて悪化する。体育の場所は男子が走る体育館の下、剣道場、だから揺れる。時間はどれも午前。プールだって始まった。ドライヤーなんて無いから、髪の毛は濡れている。寒暖差が激しい年だ。換気が十全でなかった。最前列、チョークの粉がかかる。中学よりも教室の密度は高い。音ゲーで推しバナーのイベントがあった。
そのせいだと考えていた。
いや、そのせいでもあったのだろうが、それでは説明しきることが出来ない。
それだけでは無い証左だ。
原因は
直接的なものは、思いつかない。逆にいえば、何もかもが原因かもしれない。
いじめは私の知る範囲では無かった。賑やかなクラスだった。自虐ネタはほんのり、多かったかもしれない。
友達だっていなかった訳ではない。距離はだいぶ、近い人だったけど。
授業は嫌いでは無かった。中学までは授業と課題だけでなんとかなっていたから勉強のやり方が分からないままで、ついていけないことは増えたし、課題だって出来てなかったけど。
先生だって優しくて、心配してくれた。その声に返事するのは、少しばかり堪えたけど。
電車は好きで、線路沿いの通学路にはお気に入りのパン屋さんがあって、桜並木があって、クチナシがあって、紫陽花があった。朝早くて、しんどかったけど。
体育は男女別。体つきが違うんだから、当たり前だ。
鳥が囀る。木の葉が擦れる。電車が通る。ウォーターサーバーの自動洗浄が始まる。外壁工事のネットが揺れる。槌音がする。そりゃそうだ。『歴史ある、自然の中の学校』だから。
空気が悪い。41人も一部屋にいて、窓の外には工事のためのネットがあるんだから仕方がない。すぐ後ろに森があるような中学は比べるもんじゃない。
どれも、原因とするには弱い。まるで2ダメージずつ与えていくように、そんな理由があまりにも多いから。
知ってて欲しいこと
書いてるだけでも、だいぶしんどくなってきた。
じゃあなんで書いてんだって、少しでも多くの人に、自分のわがままで、知ってて欲しいからだ。
何を?
朝起きられない、夜寝付けない病気があること。午前10時に起きることすら難しいこと。
感覚は人によって違うこと。聞こえるようにと大声にしたら、大きすぎて聞き取れないこと。
性別は、7つよりも多いこと。今適当に数えただけで、180はあったこと。
「ちくちく言葉」って、誰かに向けられた訳ではなくとも、心を抉ること。
不登校に、明確な理由があるなんて限らないこと。
もしかしたら、多分、きっと、ほぼ確実に、1つずつピックアップするかも。
その時は、またよろしく。
あ、最後に。この歌、聞いてみて欲しいや。
もう生きてるだけで褒めて頂戴/100回嘔吐
2023/07/30 エッセイ化しました